2026年6月11日、ITA(全米大学テニス協会)とATP(男子プロテニス協会)が『PIF ATP Next Gen Accelerator 2026-27』の対象選手を発表しました。米国の大学テニスで最高峰の実績を残した23名の選手が、ATP Challengerの本戦・予選枠と、賞金・分析ツール・教育プログラムなど、プロ転向を大きく加速する支援を1年間受けられる仕組みです。今年注目したいのは、この23名の中に日本人選手が2名含まれていること。Jay Friend選手(University of Arizona卒)と、三好健太 選手(University of Illinois卒)です。2人とも2025-26シーズン(今年5月)で大学4年間を完了し、次のステージへ進む節目に立っています。本記事では、Acceleratorの制度詳細と、両選手の4年間のキャリアを徹底解説します。
PIF ATP Next Gen Acceleratorとは
PIF ATP Next Gen Acceleratorは、20歳以下の有望なプロ選手・大学選手・ジュニア選手を対象に、ATPツアーへの登竜門となる大会出場枠と、包括的な育成支援を提供するプログラムです。運営はATP、支援はサウジアラビアの Public Investment Fund(PIF)。プログラムは2023年に始まり、2026-27シーズンで4年目を迎えます。
狙いはシンプルです。若い有望選手が『資金不足でプロ大会に出場できない』『実戦経験が足りずランキングが上がらない』という悪循環に陥らないよう、大会枠と経済的支援を組み合わせて提供する。これによって、才能ある若手が実力に見合ったスピードでプロへ駆け上がれる環境を作る、というものです。
3つの柱(Pillar)── 誰がどう選ばれるか
Acceleratorは3つの柱で構成されています。プロ選手が自身のPIF ATPランキングで到達する『プロ柱』、米国大学テニスの実績で選ばれる『カレッジ柱』、そしてジュニアグランドスラム等の実績で選ばれる『ジュニア柱』です。

| 柱(Pillar) | 対象 | 付与される出場枠 |
| プロ(Top 500) | 20歳以下でPIF ATPランキングTop 500 | ATP Challenger 50/75の本戦を最大8枠 |
| プロ(Top 350) | 20歳以下でPIF ATPランキングTop 350 | ATP Challenger 100/125の本戦または予選を最大8枠 |
| プロ(Top 250) | 20歳以下でPIF ATPランキングTop 250 | ATP 250大会の本戦1枠+予選2枠 |
| カレッジ(Top 10 ITA) | 年度末ITA D1シングルスランキング Top 10 | ATP Challenger 50/75の本戦を最大8枠 |
| カレッジ(11〜20 ITA) | 年度末ITA D1シングルスランキング 11〜20位、またはNCAAシングルス選手権QF進出 | ATP Challenger 50/75の予選を最大8枠 |
| ジュニア | ジュニアグランドスラム上位/ITF Junior Finals出場者等 | 別途規定の本戦・予選枠 |
カレッジ柱の選考基準(詳細)
大学経由で選ばれる場合の基準は2つ。①年度末ITA D1シングルスランキング Top 20 に入る、または②NCAAシングルス選手権で準々決勝に進出する、のいずれかです。この中で、Top 10 の選手は Challenger 50/75 の本戦枠を、11〜20 位(およびNCAA QF)の選手は同大会の予選枠を、それぞれ最大8枠獲得します。
2026-27シーズンには、この基準を満たした23名の大学出身選手がAccelerator入りしました。日本人のJay Friend選手と三好健太i選手を含む、Dylan Dietrich(Virginia)、Michael Zheng(Columbia)、Ozan Baris(Michigan State)、Aidan Kim、Oliver Tarvet、Nick Papamalamis(Texas A&M)、Ignacio Inchauspe(Princeton)ら錚々たる顔ぶれが並びます。
詳細はATPのオフィシャルホームページ参照
Acceleratorの4つのメリット ── 単なる出場枠を超えた包括支援
① 大会出場枠(本戦・予選)
ATP Challenger 50/75/100/125/250 各カテゴリーの本戦・予選への出場枠を最大8つ獲得。プロツアーの入り口の『初戦から』プレーできることが最大の価値です。
② 経済的支援(1大会あたり,000/年間最大,000)
Challenger 大会に出場するたびに $1,000 が支給され、年間で最大 $12,000 の支援が受けられます。渡航費・宿泊費・帯同コーチの負担が重い若手にとって、これは実質的なプロ活動の資金源です。健康保険や医療費の追加支援も用意されています。
③ Tennis IQ(PIF提供の高度分析ツール、2026年新設)
2026年から新設された『Tennis IQ powered by PIF』は、試合分析、対戦相手スカウティング、動画解析を統合した高度なアナリティクス・プラットフォーム。カレッジトップ層はもちろん、これから世界の強豪と戦う選手たちの意思決定を科学的にサポートします。
④ マスタークラスと教育プログラム
シーズンを通じて、メンタルヘルス、怪我予防、インテグリティ(アンチドーピングや八百長対策)、ビジネス・リテラシーなどをテーマにしたマスタークラスやワークショップが用意されています。講師陣にはATPの専門家、PIFアンバサダー、そしてRafael Nadalら現役・元トップ選手が名を連ねます。
Jay Friend選手
Jay Friend選手は、2003年12月22日生まれの日本国籍プレイヤー。ミドルネームの『Hara(原)』が示す通り、日本のバックグラウンドを持っています。University of Arizonaで4年間プレーし、2025-26シーズンで学部を卒業。
| 学年(年度) | Jay Friend(Arizona)の主な実績 |
| 1年生(2022-23) | Arizonaに入学。UTRを積み上げ、フレッシュマン・シーズンで実績を残す |
| 2年生(2023-24) | All-Pac-12 First Team(シングルス)/Pac-12 Doubles Team of the Year(Colton Smithとのペア)/ダブルスシーズン通算30勝で校記録タイ |
| 3年生(2024-25) | First Team All-American/Academic All-American/NCAAシングルス選手権 準々決勝進出/FISU World University Games(ドイツ)シングルス・混合ダブルス、男子団体で日本代表として3冠、男子シングルスは1967年以来の日本人金メダル |
| 4年生(2025-26) | ITA Men’s All-American Championship(Tulsa, 9月)優勝 ── Arizona史上初の同大会制覇/2年連続ITAオール・アメリカン/年度末ITAシングルス3位/Fairfield ATPチャレンジャーで初タイトル獲得/Little Rock Challenger 準々決勝/Phoenix 175 Challenger 2回戦 年度末(2026年5月)のITAシングルスランキング3位: アリゾナ大学史上最高タイ記録です。 |
ATPチャレンジャーでの初タイトル獲得、Little Rock Challenger 準々決勝、Phoenix Challenger 175 での2回戦進出など、Acceleratorに選ばれる前から結果を出しています。Acceleratorの支援を受けることで、これからのプロキャリアが更に加速することが期待されます。
三好健太選手
三好健太選手は、ビッグ・テンカンファレンスの名門校 University of Illinois で4年間プレーし、2026年5月に卒業しました。
| 学年(年度) | Kenta Miyoshi(Illinois)の主な実績 |
| 1年生(2022-23) | Illinois(ビッグ・テン強豪)に入学。フレッシュマン・シーズンで戦力に加わる |
| 2年生(2023-24) | ITAシングルス All-American(初)/Big Tenランキング上昇/プログラムに欠かせない主力へ |
| 3年生(2024-25) | Big Ten Player of the Year 受賞/All-Big Ten First Team(Unanimous)/2年連続 ITAシングルス All-American/NCAAシングルス選手権 Sweet 16 進出/CSC Academic All-America First Team ── Illinois男子テニス史上初 |
| 4年生(2025-26) | 2年連続 All-Big Ten First Team(Unanimous)/シングルス26勝11敗、ダブルス12勝9敗/カレッジ通算100勝/Big Ten通算22勝4敗/ITAシングルス最高6位、ダブルス最高2位/CSC Academic All-America Second Team/ITA Midwest Region Arthur Ashe Leadership & Sportsmanship Award/2026年5月に 卒業 |
三好選手の大学キャリアは、コート内外での偉業に満ちています。3年生時の2024-25シーズンには『Big Ten Player of the Year』(ビッグ・テン最優秀選手)を獲得。ITAシングルスAll-Americanは2年連続。NCAAシングルス選手権では Sweet 16 進出を果たし、全米の強豪と互角に戦いました。4年生時は26勝11敗のシングルス成績で、キャリア通算100勝・Big Ten通算22勝4敗という、Illinois男子テニス史に残る数字を残しています。
学業面も別格です。CSC Academic All-America First Team(2025年、Illinois男子テニス史上初)、Academic All-America Second Team(2026年)を受賞。さらに2026年6月には、コート内外での模範的な振る舞いに対して贈られる『ITA Midwest Region Arthur Ashe Leadership & Sportsmanship Award』を受賞しています。
Acceleratorが変えるカレッジテニスの未来
PIF ATP Next Gen Acceleratorは、単にトップ選手を支援する制度ではありません。これは、米国大学テニスとATPプロツアーを制度的に結び直す構造改革でもあります。従来は『大学で活躍しても、プロに行く時は結局ゼロから』だった若手が、Accelerator経由で『大学の実績を直接プロ大会の出場権とお金に換えられる』時代になりました。
この結果、大学テニスの価値そのものが上がっています。数年後には、『高校からいきなりプロ』ではなく『高校→大学→Accelerator→プロ』が主流の育成ルートとして定着する可能性が高いと考えられます。
今回日本人選手のお二人がAcceleratorに選出されたことは、『日本ジュニア → 米大学 → プロ』というパスを目に見える形で示してくれました。これから米国大学を目指す日本の中学生・高校生にとって、非常に励みになるニュースです。今後のお二人の活躍に注目したいです。
(本記事の情報は2026年7月時点のものです。Acceleratorの詳細規則、対象選手一覧、両選手の最新戦績は、ATP公式・ITA公式・各大学アスレチック公式サイトでご確認ください。)



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